無痛分娩に助成金、に思うこと
- Yuriko Yamamoto
- 4月20日
- 読了時間: 3分
更新日:4月21日
こんばんは。横浜市の産婦人科クリニック、妙蓮寺すいクリニックの院長山本ゆり子です。
我が家は朝日新聞および朝日小学生新聞の熱心な読者です。紙の新聞のページをめくる行為にはわたしの心を不思議と落ち着けてくれる効果があります。
さて、2025年4月19日の朝刊に東京都が無痛分娩に対して助成金を出す、という記事がありました。生まれたての赤ちゃんと顔を寄せ合うお母さんのカラー写真入りでなかなか大きく取り上げられていました。
いままで経済的な負担から無痛分娩をあきらめていた方々に選択肢が増えることは歓迎するべきことだと思います。しかし、記事の話の展開にやや違和感を感じました。「先進国」では、無痛分娩は当たり前、日本は遅れている、というお決まりの話の運びで、無痛分娩の割合が高いアメリカやフランスの統計を出すものの、ヨーロッパでも無痛分娩の割合がそれほど高くないドイツやオランダの数字は出さないことに作為を感じました。
無痛分娩をする方が「先進的なお産」だなんてだいぶ乱暴な発想です。麻酔をする分娩は、妊婦さんは自力では歩いたり排泄することができなくなり、「管理された」お産になります。帝王切開が増えることはありませんが器械分娩(鉗子分娩や吸引分娩)のリスクを増やします。それに伴って会陰の傷も大きくなるし、赤ちゃんの合併症も増えます。そのあたりも記事に盛り込んで、妊婦さんの選択に役立つような情報提供をしてほしかったなと思いました。麻酔によって痛みが和らぐことが、それらのデメリットをふまえても妊婦さんにとって安心なのであればそれはその方にとっていいお産なのだと思います。
ところで当院では助産院で出産する方の妊婦健診を積極的にお受けしています。主体的なお産をしたい、という熱心な方が多く彼女たちの診療をわたしは楽しんでいます。助産院での出産は「母親の自己満足で赤ちゃんを危険にさらしている」とバッシングを受けることがありますが、現代における助産院での分娩は医療と二人三脚です。お産が健やかかどうかは女性の精神状態に大きく影響されます。助産院の細やかな妊娠中とお産のケアは妊産婦さんの産む力を引き出してくれます。
無痛分娩に対しては赤ちゃんが背負うリスクについて言及されることが少ないことを不思議に思いますが、どんなお産にもリスクはつきもので、妊婦さんが納得するお産がいいお産なのだとわたしは思います。妊産婦さんのお産に対する満足度はその後から始まる長いながい育児を肯定的に取り組むための大切な土台です。
さまざまなお産のスタイルの中から妊婦さんが主体的に選び取り、すべてのお産の安全を医療が最大限サポートする。そのサポート体制の一端を担うべく日々診療しています。
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